昔のアイドルって今みたいにアイドルグループが主流ではない故、個々が粒ぞろいの印象がある。松田聖子と中森明菜の二極に分かれてたり、アイドルの中でもアプローチが異なっていて興味深い。日本の歌謡曲、アイドルの楽曲は海外でも結構人気で、それも国内ではそんなに有名でないアーティスト含めて注目されている印象がある。
60年代から70年代のアイドル歌謡の構築って実はバカにできなくて、麻丘めぐみにしろ岩崎宏美にしろ、編曲や録音の面からみると、歌の帯域では楽器があまり邪魔してないんです。ドラムなんか聞こえないくらい小さく絞ってある。そうすることによって、歌が少々パワー不足でも前に出て聞こえる。なかなかのエンジニアリングがほどこされている
作詞家っていうのはすでに認知された職業だったから、ヒットさえすれば食えるわけで、その選択はしたよね。ドラムもそのときにやめた。細野さんがYMOで大ヒットしたときに歌謡曲に引きずりこんだんだけど、一緒にテクノ歌謡をつくりながら、『松本、いいときにドラムやめたな』って褒められたよ(笑)
アイドルの作詞といったら松本隆の名を見ないことは無い。歌謡曲の作曲と言ったら筒美京平が有名だろうが、80年代前半にYMOで活動していた細野晴臣も松田聖子や中森明菜に楽曲提供している。両者は元々70年代前半に元祖日本語ロックバンドとも言われるはっぴいえんどのメンバーでもあり、ある種J-POPのイノベーター的存在なのである。
──「ハイスクールララバイ」は萩本欽一さんの番組「欽ドン!良い子悪い子普通の子」から生まれた楽曲ですね。オリコンのシングルチャートで7週連続1位という大ヒットを記録しています。
細野 いや、「えっ? こんなんでいいんだ」って。細野 作ってる途中で締め切りが来ちゃったんだけど、できてるフリをして、30分くらいで一気にオケを仕上げた(笑)。で、思いのほかヒットしたわけだ。そしたら坂本龍一くんが「あの曲はいいね」とか言ってくれるんだよ(笑)。
細野 「ええ!?」とか言って(笑)。
細野 みんなのどこをくすぐったんだろう? 自分ではあんなにヒットするなんて考えてもなかったね。で、あるとき新聞を見たら今度はユーミンが評論してるんだよ。「あの曲は転調がすごい」とか。
細野 そういう鋭い指摘があって「なるほど!」って(笑)。
細野 そうそう。まあ先に歌詞があったんだよね。やっぱりこれも松本だよ。歌詞から音階が見えたっていうか。
(省略)
細野 そういえばYMOをやっている頃にジャニーズ事務所から楽曲の依頼があったね。少年隊だったかな? それでオケを作ったのね。YMOっぽいやつ。
細野 でもボツになった。当時まだ、ああいう人たちはビッグバンドをバックに歌ってたから。テクノは市民権がなかった。
細野 出てない。あれ、どこにいっちゃったんだろう? どういう曲を作ったのかも全然覚えてない。
細野 誰か持ってないかな。聴きたいんだよ、僕も。
アイドル歌謡
■河合その子『Mode de Sonoko』
おニャン子クラブの元メンバー。癒し系の落ち着いた楽曲が多いが、唐突な「PARISが聞こえる」で目を覚まされる。「避暑地のアンニュイ」のエンディングからもう始まっている感じがするが、石井明美「CHA-CHA-CHA」のようなリズムで、ナレーションパートから歌唱に入るというスタイル。
テクノ歌謡
■ 真鍋ちえみ『不思議・少女』
元祖テクノ・アイドル。スーパーバイザーに細野晴臣、サウンド・プロデュースに清水信之、作詩・作曲に阿久悠、安井かずみ、EPO、大貫妙子、大村憲司、加藤和彦、矢野顕子、プログラマーに松武秀樹らしい(タワレコの説明欄より)。表題曲からピコピコサウンドで宇宙的な感じがするアイドルソング。イントロが惹かれる「ロマンチスト」とかも最高。
■中森明菜『D404ME』
中森明菜ってポップなようでどこかアングラ。 そういう点では椎名林檎みたいなダークさがある。どことなくSyoko『Soil』のようなアングラ感のあるシンセベースの「Blue Ocean」とか(編曲調べたら久石譲)、逆再生のような場面や尻切れトンボで終わるエンディングが印象的。中森明菜らしくないテクノポップ的な「マグネティック・ラヴ」はアシッドベースがアクセントとして入っていたり、「ミ・アモーレ」のフレーズがサンプリング的に入っていたり、結構トラック自体が面白い。忌野清志郎作曲の「Star Pilot」も80年代っぽくて良い。ラテンな「ミ・アモーレ」は名曲だが、「モナリザ」もそれ以上に名曲で衝撃。
■岩崎良美『Blizzard』
1曲目の「Opening」がメドレー形式でノンストップで自身の楽曲が流れる(アニメ『タッチ』の主題歌なども含む)。これがまず15分強あるという特殊な構成。全体体にタイトルにあるように冬聴きたい雰囲気。と言うよりスキー場で聴きたいし、流れていて欲しい。
■ 宍戸留美『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・シ・シ・ド・ル・ミ』
90年代初頭っぽいテクノ感。児童向けの楽曲っぽい作風。だが、複雑なピアノが乱入する「コンビニ天国」のように、トリッキーさなどがある。TR-808の音色が特徴的な「ピンクのラフレシア」もファンシーでポンキッキーズのような雰囲気。
シティ・ポップ
■本田美奈子『LIPS』
感動してしまうくらい歌が上手くて良い。80年代っぽい「1986年のマリリン」も最高でエモい。「バスルーム・エンジェル」のメロディとかノスタルジックを感じるサビ。女番「タイガー&ドラゴン」のような「YOKOSUKAルール」。
■菊池桃子『Adventure』
シンセとギターいかにも80年代の歌謡曲って感じだが、寺尾聰作品のような哀愁とオシャレさを感じる。表題曲でボーカルを聴いてみると謎のヒーリング効果と言うか魔力がある。近づいてはいけないが引き寄せられるみたいな歌声。
■斉藤由貴『LOVE』
ヒーリング効果がある。トラックのディスコティック感がある。「Yours」の癒し効果半端ないし、「このまま」もドラム隊無しのピアノバラード。
■MILK『MILK』
Winkみたいな感じだが、荻野目洋子含めた3人組アイドルグループ。80年代後期のような、ユーロビートじゃないにしろプレ渋谷系的なディスコチックなハウス系アイドル歌謡。
ゴス系
■中森明菜『不思議』
「Back door night」からゴシックでイーサリアルなニューウェーブ。ソフトバレエのようなEBM感もある。天然Vaporwaveのような「マリオネット」。もはやBOØWY。中森明菜自身がエクソシストの「Tubular Bells」にインスパイアされてセルフプロデュース。サウンドプロデュースはほぼEUROX。
ハウス系
■小泉今日子『KOIZUMI IN THE HOUSE』
初っ端からアシッド・ハウス。Meat Beat Manifestを彷彿とさせる「マイクロWAVE」も良い。ピチカート・ファイヴの「CDJ」の元になったオリジナル収録。作曲は小西康晴。
Hi-NRG
■斉藤由貴『age』
「LUCKY DRAGON」から癒される明るさ。退勤後一発目で聴きたいディスコ。「ガラスの天球儀」はDead Or AliveのようなHi NRGっぽさ。「LUNA」は谷山浩子っぽいし、「In my house」はJBサンプリングのハウスミュージック。
■森高千里『見て』
メドレー風の7分越えの「おもしろい」は曲調が変わりながら1曲としてずっと続くのが1曲目としては凄い。「ストレス」はやっぱり中毒性があるし「戻れない夏」もラウンジ感があって良い。
■Satellite Young『Satellite Young』
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス同士だった草野絵美とベルメゾン関根によるユニット。80年代のテクノ歌謡って感じのサウンド。でも歌詞はよく聴くと現代のネット社会を示唆しているものが多い。ビジュアルも80年代っぽい雰囲気。「フェイクメモリー」とか最高。アイドル歌謡をムーヴメントではなく、日本音楽の1ジャンルとして位置づける存在。全体的に石井明美の「CHA CHA CHA」くらいディスコティック。
以上。