音楽には2種類「他の音を許容する音楽」と「静寂をエッセンスとして成り立つ音楽」がある。
寝る前の時間と言うのは最も静寂に近い時間帯であり、雑音を嫌味嫌う時間である。それと同時に静寂がうるさすぎて眠りに付けないという「静寂過ぎてうるさい」と言う現象もまた懸念される。ここで寝る前に効く安眠導入剤としての音楽なのである。
1.Radiohead『KID A MNESIA』
Aphex TwinやスクエアプッシャーのようなIDM感のある作品。リラックス効果はあるが、授業がわからなくて退屈で寝てしまうような催眠効果がある。面と向かって聴こうとすると難しい。
本作に漲る緊張は、〈どんなにがんばっても上手くいかない〉という苛立ちの感覚を、極めて繊細に表現している。たとえばその苛立ちは、不眠の状態に似ている。日中どんなに充実した時間を過ごしても、真夜中の不眠は唐突にやってくる。体は疲労しているのに意識は冴えており、なにをしても安らかになれず、苛立ちばかりが渦巻く。冷たい静けさの中で声を荒げることもできず、押し殺した、だれにも向けられない怒りを持て余す。なぜ、人々が無意識の安らぎに包まれているときに、罰を受ける罪人のように一人で不穏な時を過ごさねばならないのか。なぜ、自分の体と意識が一致しないのか。“Everything In Its Right Place”の言葉が、音の快楽と喧嘩している。“Pyramid Song”の険しい美に、ふぞろいな言葉が苛立っている。『Kid A Mnesia』の緊張した不機嫌さは、不眠の孤独な怒りに最も近しい音楽だ。
☟永野の『Kid A』評がとても良い。面白くわかりやすく解説している。
2.Grouper『Ruins』
滅亡後のポストアポカリプスの世界に残された自然やオアシスを見つめながらゆっくりと1人で終わりを待ち続けるような美学を感じ取れる。「Made of Metal」で何かの儀式が始まるような太古の音が聴こえてきたかと思えば、以降はピアノと歌の美しい旋律。時折人間以外の生物の鳴き声が聞こえてきてまだ希望が見える。「Made of Air」はアポカリプティックサウンドを彷彿とさせるアンビエント。
3.Bohren & Der Club Of Gore 『Midnight Radio』
静寂がアクセントとなる作品で、ラジオ終了後の余韻のような雰囲気がある。ベースの低音の鳴りと、ギターを鳴らした響きが静寂と結託して構成した音楽で、メロディーや展開は皆無。深夜に徘徊しながら聴くと良い。聴きながら思考の余地が入る。
4.Pudding Club『Songs Before Bed』
タイトルにもある通りだが、サウンドや雰囲気的には昼寝の際に聴きたい気がする。lo-fiなアコースティックギターとベースのみで十分贅沢なサウンドが出来ている。サウナ室で流れるアンビエントのようにほっこりとした心地よさがあり、たまにアクセントで流れるくぐもったシンセ的な音も良い。
5.James Blake, Endel『Wind down』
AIによってデザインされた安眠アプリ「Endel」のために作られた作品。リラクゼーションの場で使われるような、波の音が入った綺麗なピアノのイージーリスニングなアンビエント。
6.Nurse With Wound『Dark Fat』
昔のサスペンス・スリラー映画のBGMのようなダークなエフェクトサウンドにどっかから盗って来たような音楽のサンプリングだったり、ミュージックコンクレートに近いインダストリアルって感じ。
7.The Caretaker『An Empty Bliss Beyond This World』
就寝の際に聴くと贅沢な気分になる。サンプリング元が古いジャズやブルースなどで構成されているので心身ともに安らぐ、精神科のBGMって感じ。
☟The Caretakerことカービーの実験的試みとして、アルツハイマー病の進行段階などの研究を概念化させたような作品との旨がサイトにて記載されている。
The Caretakerの認知症六部作、二年前にYouTubeにアップロードされたやつ(6時間半ある)が1700万回再生されてインターネットで半ばミームみたいな扱いになってる、ということをわりと最近知ったhttps://t.co/U4lq3ZAhzD
— kzwmn02 (@euthanasia_02) October 23, 2021
8.Sam Gendel & Sam Wilkes『Music For Saxofone & Bass Guitar』
ジャズは最も寝る前に聴きたいと思う音楽だが、冒頭の「BOA」が最高過ぎる。聴く静寂というほど余計なものがなく永遠に聴いていられる。その後はサックスやベース以外にも人の声などの外音を取り入れた楽曲が出てくるが、前半は静寂、後半は他を許容する楽曲のような構成である。
9.Marconi Union『Weightless』
下記サイトにもあるが、科学的にも立証されているらしいので安眠に良さそうだ。寝るときに流しているとホントにちょうどよい。
ピアノと歌唱のみのシンプルな構成だが十分に満ちている。宇宙と大自然にまつわる感動をモチーフにしたような情景的な作風。ジャズベースだがソウル・R&Bっぽさがあって「ごらん」のサビがちょっとカッコ良い。寝る前の子供の読み聞かせのような雰囲気で最高。
以上。