Patchwork Dream

随時、記事の加筆・修正または再掲載します。

気分がクソの時に見る映画①

1.チャーリー・カウフマン脳内ニューヨーク』(Synecdoche, New York)

脳内ニューヨーク

やはり数回見ないと理解し難い作品で「誰一人エキストラじゃない 皆 それぞれの人生の主役だ
出番を必要としている」といったメッセージは伝わった。

主人公ケイデンの体調、また夫婦仲が原因不明のまま悪化し、ある日娘のオリーヴを連れて妻アデルがベルリンへ行き、ケイデンは孤独を感じるようになる。そんなケイデンがマッカーサー・フェロー賞の賞金で、人生をかけたプロジェクトを始める。題名は最後まで定まっていない。

ケイデン自身の人生を舞台に反映させて役を演じるため、見ていて誰が誰だか分からなくなる。時系列的にも混乱してくるが、停滞と不停滞の間の不確実な半現実の世界とエレンが言ったように、ケイデン自身もそうなのかもしれない。

イデアが枯渇したケイデンに代わり、エレンが代役でケイデンを、ケイデンがエレンの代役に掃除婦役を演じ(?)、耳に無線のようなものを付ける。この時ケイデンとエレンの人生が重なり、両者の回想シーンを挟む。

終盤はいつの間にかボロボロになったアデルの居宅から年老いたケイデンが外へ出ると、誰もいないボロボロのニューヨーク(天井がある為、すべて一つの巨大な舞台だと思われる)があり、無線の「死んで」という指示と共にホワイトアウト

あなたはアデルであり、ヘイゼルでクレアでオリーヴなのだ、と無線から聞こえてくるように、誰一人としてエキストラではないということなのだろう。挿入歌の『Little Person』が物語っている。

実際の放送事故をモチーフにしたパロディネタがあったり、ダジャレめいたセリフがあったりコメディ的な要素はある。ただ、何のツッコミもなくヘイゼルが火事になっている家を紹介され、そこで煙の吸引を死因として亡くなるのが引っ掛かる。

劇中のアニメーションが現状にリンクしていたり(ちゃっかりサミーもいる)、CMでも啓発を勧めたり、ケイデンを模したキャラが描かれるのは心情表現なのか。

難解なものの、気に入ったセリフも多く、良いジャケット詐欺映画だと思った。

"人は無常の存在だ 自分の特徴が1つずつ失われていき 誰にも注目されてなかったと悟った時
人がするのは運転だけ 
どこからともなく来てどこへ行くでもなくただ運転する 残り時間を数えながら"

2.手塚眞『星くず兄弟の伝説』

星くず兄弟の伝説【デジタルリマスター版】

近田春夫『星くず兄弟の伝説』という架空のサントラを原案に本当に映画化した作品。

ミュージカル映画のように大量の挿入歌が導入され、かなりカオスな展開が繰り広げられている。戸川京子景山民夫といった当時の時代を代表するような著名人が起用され、やりたいことを大々的に行っている感じがあり、景気の良さが伝わってくる。

政治家役キャスト候補に上がった人物も、三船敏郎岡本太郎など豪華だが、作品内では一般通行人役に森本レオなど、豪華な使われ方がされている。また、途中のアニメーション部分は恐らく『夢幻紳士』の高橋葉介によるもの(?)で本人も出演。

最近では海外からも注目され、リマスター盤も発売、続編の新作も制作され、カルト映画としてかなり見ていて面白い作品になっている。謎の感動がある。

3.大林宣彦『HOUSE ハウス』

HOUSE ハウス[東宝DVD名作セレクション]

元祖Jホラーとも言われる作品。

全編に渡って特殊効果、コミカルな感じなのが良い。当時だとJAWSとかの海外のパニック映画があっても、家に食われるって発想が斬新で、衝撃なんだろうな…。

途中、寅さんみたいな人が出てきたりトラック野郎だったりパロディも多い。

やっぱり監督がやりたいことふんだんに盛り込んで、余すこと無くやり尽くしてる作品って良いな。音楽は小林亜星ゴダイゴ。本人達も作中に登場。

"永久の命 失われることの無い人の想い
たった一つの約束 それは愛"

最後の叔母様の語りのようなシーンの言葉、メッセージ性を感じて印象的だったな。

4.A・C・スティーヴン『死霊の盆踊り

死霊の盆踊り

予告編やあらすじだけで大体物語の本筋は解決してる気がする。

カップルの「とんでもない奴らに捕まったぞ」「化け物よ」というセリフが面白い。確かに。

棒に縛り付けられて変なストリップまがいのものを見せられてる時のカップル二人の何とも言えないアウェー感がすごい。
化け物二人(ミイラ男と狼男)がストリップに合わせてノッてるのが微笑ましい。上向いたときに被り物の下の肌が見えてしまっている雑さも良い。

棒過ぎる女の人の悲鳴も笑える。
ストリッパーたちの紹介もよくわからないものがある(ゾンビとして生きてゾンビとして死んだって…)。

殺すのもったいぶり過ぎて朝が明けて丁度良すぎるタイミングで化け物たちが消滅する。

邦題の死霊の盆踊りってますますそうとしか訳せないよなと納得。

夜、寝付けないときにに見たりすると何もかもどうでもよく感じてすっきり眠れるかもしれない。最低で最高の映画。

語りの時に目線が俯きがち(絶対カンペ見てる)なのも笑える。

もうネタバレがネタバレにもならない感じ。

5.スティーブン・スピルバーグ『激突 ! 』

激突!スペシャル・エディション [DVD]

無名時代のスピルバーグが手掛けた初期作。
今でこそ騒がれるようになった煽り運転の恐怖を描いた映画。

デイヴィッドがトラックを追い抜いたところで死闘のカーチェイスが始まる。今でこそ煽り運転が問題になっているものの、劇中ではドラレコもなし、電話も手軽に掛けられないことがより恐怖心と不安を煽る。

途中の喫茶店で犯人捜しするも、結局誰がトラックの運転手なのか、何の目的でこのようなことをするのかも最後まで不明。

電話中に背後からトラックが迫ってくるシーンの迫力は半端ない(ガラスに反射して意図せずにスピルバーグが映ってしまっている)。蛇のおばちゃんかわいそう…。

暴走トラックがわざわざスクールバスを手助けしてるところに小賢しさや、もどかしさを感じる(あとバスから出てくる子供たちが健気でかわいらしい)。

ラストは何となく予測できた展開だが、相手の顔も目的もわからないカーチェイスだけでここまで展開があるのは面白い。何とかおさらばできたものの、さすがのデイヴィットも疲れやイライラから谷底に向かって石を投げる始末。笑う余裕もない。

今日では妨害運転罪が適用されるだろうし、この映画が永久にフィクションで済まされるような世の中であってほしいと願わずにはいられない。

しかし、実際注目されないだけで当時から結構こういった事件は問題視されていたのだろう。

6.田中誠タナカヒロシのすべて

タナカヒロシのすべて デラックス版 [DVD]

四丁目の夕日みたいに度重なる不幸。
大凶おみくじの伏線を見事回収していっている。

寡黙なタナカの言動がやはり鳥肌実って感じがして面白いし、憎めない。

生前の母親から注意されていた水のラッパ飲み。しようとして、やめてコップに移して飲もうとする描写とタナカの孤独感に涙。意志薄弱で謎にモテるタナカに太宰治的な何かを感じる。

ほんのラスト数分間でとんでもない不幸から、奇跡的な幸い。ハッピーエンドっていうにも現状は変わらないものの何とかなるんだって勇気が持てる最高の終わり。人生そんなもんかな。

7.ジョン・デ・ベロ 『アタック・オブ・ザ・キラートマト』

アタック・オブ・ザ・キラートマト

70年代のよく分からないカルト映画は本当にバカバカしくて笑える。

トマトが凶暴化して人を襲う自体に政府が動いて、秘密裏に工作が行われるなんてストーリー何食べたら思いつくんだろうか。
すべてがバカで意味無し。黒幕だった大統領報道官が目立ちたいためにトマトを牽引して市民を救うプランだったそうだが、その手口を利用してスタジアムで下手くそな「思春期の恋」のレコードを流す。トマトがどんどん萎縮していき、何故か報道屋の新人とディクソンが結ばれる謎恋愛エンドに。
次はニンジンに意識が芽生えたような意味ありげな終わり。

こういう映画を何も考えずに見て気晴らししたい。

8.ペーター・フィッシュリ『フィッシュリ&ヴァイス作品集 ゆずれない事 / 正しい方向』

フィッシュリ&ヴァイス作品集 ゆずれない事 / 正しい方向

着ぐるみのパンダとネズミの演劇が愛おしい。
『ゆずれない事』では金儲けに翻弄する2匹、『正しい方向』では野性味溢れる自然での暮らしに翻弄する2匹が楽しめる。
トムとジェリーのような、喧嘩して離れ離れになりながらも最後は一緒に同じ目標に向かって進んでいく様子で終わる。
人生上手くいかなくても、時は流れて落ち着いてからまた動き始める。そんな感じの作品。

9.園子温冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚

埼玉愛犬家連続殺人事件を元にして作られた事実は小説より奇なりを地で行く作品。アウトレイジが全員悪人ならこれは全員狂人。内容のエグさに主人公同様に吐き気がする。

主人公の男が心の弱さを突かれて狂変し、最終的に村田を殺すところまで来る。救いようのない展開でオチが付かない中、狂ったように笑う娘の傍らですべてを成し遂げたような死に顔を浮かべている。この作品の中でできる限りの幸せを求めたメリーバッドエンドだが、ある意味あの娘の反応には一人でもやっていけるような気がしてくる。その安堵の笑みだったのかもしれない。村田になり切れなかった主人公だが、自我を得て自分なりの正しい選択を遂行した感じがあった。ラストカットの地球は人間を嘲笑しているようで、主人公の死に顔と重なる。

10.クリフ・ロックモア『ヒューマントルネード』

ヒューマン・トルネード

すべてが詰まっている、最高。
クソみたいな世の中だからこういう楽天的な生き方に憧れを感じる。

まず初っ端から飛ばしすぎている。

ベッドから全裸で外に逃げ出して丘の上から飛び降りるダイナミックなシーンやらその展開の速さに爆笑(いい場面だからバッチリ見ろよって、劇中でシーンがリプレイされるメタ構造)。

カンフー映画並のありえないほどのアクション数。チープなシンセで軽快なリズムの曲、中毒性高い。絵面も最高。

ヒューマントルネードってセリフがいくつも出てくるけど、英語のニュアンスではどういう意味なんだろ。

不死身の竜巻、か。
終わりが素っ気ない気がしたけど、いろいろと爽快だった。エネルギーに富んでる。

 

以上。