自分の場合、都会の喧騒の中にいると、音だけでなく視覚的にもすべてがうるさく嫌に感じる瞬間があって、イヤホンで音楽を流さずして街をさまようのが苦痛に近くなってくる。どこからも何かしらの音が流れていて、話し声やら店のBGMから人の思想やら感情やらが殴り込んでくるようだ。沈黙の満員電車でさえ、各々の思想や感情がかえって露骨に感じてしまう。逆に街宣車のような特異なものが入ってくると新鮮さすら感じる。
作曲家のマリー・シェーファーが"音鎮痛剤"と呼んだ音楽の効果は、そういった苦痛を緩和させるものであって、現在でもこのような形で見受けられる。
風と水と鳥の声ぐらいしかしない静かな場所で静寂を大音量で聴きたい。そこに意図のない純なる自然を聴きたい。常に人為的な音が鳴っていることが自然である反動で、逆に静寂を、安らぎを求めている。
―――エレベーター・ミュージック
下記のエレベーター・ミュージック(ミューザック)の動画が1時間30分ほどあるが最高にリラックス出来る。デパートで流れているような、いわゆるBGM的なものがミューザックである。
BGMと言えば、YMOもミューザックと評されたようだが、マーティン・デニーをシンセで再現しようという細野の試みから始まったプロジェクトがYMOであるので、ある種モンドミュージックを発端とするYMOがBGM的だとするのは的を外れてはいないだろう。
1.Burt Bacharach『Reach Out』
このジャズともボサノヴァとも言わないまでも軽快でクラシカルな感じが良い。ミニマルに展開していく「Bound Street」の中毒性は高い。「A House Is Not A Home」のようなスムース・ジャズのような楽曲も良い。
2.Les Baxter『Jewels Of The Sea』
弦楽器の漂う水のような透き通った音色が良い。響き渡る打楽器の音色が海の深さと煌びやかさを表している。ヒーリング度が高い。
3.Jean-Pierre Mirouze『Le Mariage Collectif』
ジャングルのような湿地帯を彷徨い続けているような妖しい雰囲気のある全編インストのサウンドトラック。「Tivoli by Nighit」のパーカッションとノイズの何かが始まるような緊迫する雰囲気が渋くてアヴァンギャルドでカッコ良い。
4.Peppino De Luca『La Ragazza Con La Pistola (Colonna Sonora Originale)』
La Ragazza Con La Pistola『結婚大追跡』のサウンドトラック。ジャズでもボサノヴァでもない国籍不明な作品。シタールの音が所々鳴ってるがインド感は皆無。コメディタッチのホテルのラウンジのような雰囲気。
5.Ed Lincoln『Órgão Espetacular』
リバーブの効いたシンセサイザーが特徴的なボサノヴァ的なラウンジ。ちょっとおしゃれなカフェや落ち着ける場所で聴いて一息つきたいタイプの作品。晴れの日の朝や昼に聴きたい。
6.The Gunter Kallmann Choir『The Fantastic Sound Of The Gunter Kallmann Choir』
エモーショナルな昼ドラ風の「Daydream」から「It's Getting Better」で陽気な雰囲気に。かと思ったらまた「The Windmills Of Your Mind」でエモーショナルな雰囲気に。でも暗い気持ちにはならない。ドラマや劇の登場人物になった感覚で音楽を体感できる。
7.Dick Hyman / Mary Mayo『Moon Gas』
暗い夜の茂みを歩いていたら怪しげでフレンドリーな儀式に遭遇してしまった感がある、水木しげるの妖怪が出てきそうな雰囲気(日本じゃないけど)。水の中に潜っているような宇宙遊泳しているような「Bye Bye Blues」はモンドジャズと言う感じがして良い。全体的にシンセの音が良いアクセントとなっているしどこか妖しいながらもオシャレでカッコ良い感じがある。
8.Pierro Umiliani『To-Day's Sound』
開幕からシンセ音が最高なスペースエイジ・ジャズファンク。全体的にインストの電子音楽とジャズ・ファンクが合わさったような音楽が続く。昔のPCのピンボールやソリティアなどのフリーゲームのBGMのような独特な趣のある作風。
9.Ferrante & Teicher『Space Age Pop』
トータル13分程の短い作品。ピアノデュエット曲のカタログのように、テープミュージックさながらの切り貼りサウンドで、無料版音楽ストリーミングサービスのように1分足らず30秒程で次の曲になるのである意味飽きないが忙しない。何べんも聴きまくって伸びたり音飛びしたカセットテープのクラシックを聴いているような不思議な感覚。
10.Esquivel, His Piano And Group『Four Corners Of The World』
ラテン風ジャズのブラジル的なラウンジミュージック。ホテルのモーニングで流れていたら陽気な感じがする。
以上。