小説って基本的にこちら側を傍観する第三者みたいな感じで登場人物間で勝手に話が進んでいく印象があるが、エッセイのような、こちらが共感を示したり情緒を揺さぶられるような吐露やエピソードが放り込まれていると途端に感情移入やらでその登場人物にのめり込むことが出来る。
1.町田康『くっすん大黒』
ただ大黒を捨てるだけの話なのに、併録の『河原のアバラ』含めて、なんだか事態が予測もつかないような面倒ごとに巻き込まれていく。青春小説ではないものの、友人とバカやってふざけたり、騒動に巻き込まれたりっていうのが面白いし、良いなと感じさせられる。ちなみに、町田康も貧乏で暇な時、家と図書館を行き来していたようだ。
読み進めるごとに面白くなっていく映画のような作品。
ある男の手記のような形で物語が進んでいくので、読み始めはとっつきにくい印象。109やらエアマックスやら実在する固有名詞多めで、当時の時代を表している感じがする。参考文献には物騒なヤクザ、スパイ関連の書籍が並ぶ。デス渋谷系文学。
3.松永K三蔵『バリ山行』
山に登ってみたくなる小説。
昔、学生時代に登山をしていたが、小説内に出てくる社内の登山サークルのような、舗装されたな登山道を往来するだけのものだった。
山は人生になぞらえられることが多いが、厳密に人生にはレールなど敷かれていないし、自分の判断・行動で大きくルートが変わるので、たしかにバリ山行に近いと思う。
バリは一人だから良いと言う妻鹿さんをなぞるように一人でバリ山行に赴く主人公が、不安の中あれこれ考える自分に妻鹿さんを重ね、妻鹿さんの言っていたバリ山行の魅力に気付き始める。ラストの一文がグッと来た。
「中学2年生のとき、母親にドストエフスキーの『罪と罰』を薦められたのがきっかけ。ものすごいエネルギーとか世界の深遠さ、現実世界を、虚構を通じて『体験』しました。漫画しか読んでいなかったので、頭では理解してなかったと思います。それでも世界が一変する衝撃を受けました」
翌日からノートを買い、小説を書き出した。
「俺もこういうの書きたいってなって、高校生でもずっと書き続けて。大学卒業くらいから、賞に投稿し始めました」
2002年の卒業後は、ずっと会社員だった。
「福祉系職員や建築・不動産関係の会社とか、何度か転職して今に至ります。その間も小説は書いてましたよ。朝出勤前に2時間くらい書くっていうのがルーチン。毎日書かないと調子悪くなっちゃう。スッキリしたいんです」
21年、群像新人文学賞で「カメオ」が小説部門の優秀作に選出され、同書でデビュー。苦節20年とも言えるが、苦節感はまるでない。
「書くことが苦じゃないんですよ。登山、ロードバイク、小説みたいな感じで。友人に『ホンマ勘弁してくれ~』って言われながら『幸せやぞ~』ってむりやり読ませたりしてました。年間3~4本ペースで出してましたが、1つ作品が完成できたところでカタルシスがあるというか。落選したら多少落ち込みはしますけど、まぁ次書こうかってなりますから」
LGBTや裏アカなど、少しグレーな感じの題材をモチーフにしていて、かつ有名人の名前や実際の店やサービスの固有名詞が多く出てくるのも相まって、描写や心情がリアルな生々しさがある。主人公目線、口語体で語られるため、主人公の心情に没入していきやすい。
追体験のように小説を読み進めていくが、突飛な出来事は起きず、今もどこかで起きているであろうZ世代の若者の日常を切り取ったような物語って印象。
何とも言えないモヤモヤをきれいさっぱり解消して綺麗に完結しないところが現実のもどかしいところで生々しい感じがする。
あと随所にネットでのスラングやら専門用語やらが普通に使用されているところも令和の若者の主人公って感じがするし、用語の意味を知らないと読み進めるのが多少難しいかもしれない。
──では、25歳までは小説を書きたいという気持ちはなかったんですね。
市街地:そうですね。小説を書くってすごく途方もない行為だろうと思っていたし、そもそも小説を書きたいって感情を知らなかったので。なので選択肢としてまず存在してなかったですね。
──なにかきっかけがあったのでしょうか。
市街地:大学を卒業すると、なにもしなくても一緒にいれた人たちっていうのが、どんどん消えていくじゃないですか。自分からなにかをしないと繋がりつづけることができない、というか。それで、寂しさを残った人たちで埋め合おうと必要以上にお互いの存在を求めすぎて、仲違いしてしまうことがままあったんです。恋人はもちろん、友達もそうでした。
人間関係そのものがしんどくなっていたけど、でも一人になったらなにをしたらいいかわからなくて。そんなときに、ツイッターのタイムラインである文学賞の広告を見て、小説を書くって選択肢があるんやなってそのときに気づいたんです。それで、大阪文学学校というところに通いはじめました。
──そのときのことをいま振り返るとどうですか。
市街地:書いているときは不思議と気づかないんですけど、書き終わってから「いまめっちゃやらしい気持ちで小説を書いてたな」って気がついちゃうんです。これはたぶん小説を好きな人間が書いた小説ではなくて、自分を好きな人間が書いた小説なんだろうなって。文学学校に行っている人を見ると、やっぱりそうじゃない人がいっぱいいる。その人たちを見ていると、自分が恥ずかしくなってきてしまって。ぼくは自分の道具として小説を使おうとしていたんだろうなって、こんな人間はたぶん小説を書くべきじゃないと思って、そのときは一年で書くのをやめました。
5.安堂ホセ『デートピア』
タヒチ、ボラボラ島で開催されたデートピアという疑似恋愛バラエティーショーをテーマにした物語。
主人公が存在せず、まるで『バチェラー』などの番組を第三者である批評家が論じているような体で進み、現実世界で起こった時事を交えながら語られる新感覚の小説。デートピア参加者は日本を含めて世界各国の人種が含まれるため、ポリコレについて触れられる点も先鋭的で興味深いし、実在する固有名詞を随所に交えるため、タブーを物ともせず語られる物語が生々しい現実感を帯びてくる。
これは視聴者であり、キャストでもあるモモを主人公とした過去の振り返りと伝聞、そしてデートピアからなるストーリーであり、人間の在り方(ここでは主にミックス)において、どんな過去であれ、生まれた後の現在を持ってして「それが間違いであったとは言えない」し、なんとなく今を肯定しつつ生きている者たちの記録である。
6.小森健太朗『大相撲殺人事件』
相撲縛りでマダミスやってみました、ってここまで書けるのは凄い。全話相撲ならではのトリックだったり、縛りがある。
割と猟奇的な殺人がありつつも、子供が読んでも問題ない(推理系の児童書)くらいの雰囲気。
ラストはなかなか特殊なトリックだったが、やはり最後まで鋭いマークの推理。的はずれな見解の中に割と良い指摘をする御前山。ツッコミの聡子。シリーズ化しても良いくらい、読みやすくて面白い。続きがあれば、マークの今後、千代楽部屋の今後が気になる。
7.燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』
恋愛小説読んだこと無かったが、最高にエモい。
ショートショートくらい短い恋愛小説。各章タイトルがオザケンの曲なのが気になったが、やっぱりオザケンファン。渋谷系や90年代当時のサブカル的なものが盛り込まれていて、渋谷系文学って感じ。関係の無いオムニバスかと思えば、20年にも渡って続く長い恋愛物語だと気づく。
固有名詞多めで、余計な駄文は無く、まるでその時代を追体験しているかのように入り込める。まるで誰かの古い日記を読んでいるようなリアルな没入感があって寝る前に読み進めるのに最高。
8.上條一輝『深淵のテレパス』
オカルトに対してあくまでも懐疑的な雰囲気で終結しているのが良い。
やっぱり辛い現実から目を背けるとき、人はオカルトや怪談など現実離れしたものに惹かれがち。
作中でも、職場の人間関係や複雑な家庭環境など、現実的でシビアな面が描かれる場面も随所見受けられる。
小説を読んだ後にいろいろ考察しがいのある雰囲気だったが、その考察さえ作中で倉元がオカルトを除いた現実的観点で述べている。
9.やがみ『僕の殺人計画』
ミステリー小説って読んでいる間探偵になったように頭が働くので良い。ドラマを見ているような感覚で先が気になってどんどん読み進めてしまう。
複数の人物が登場するが、それが各々一人称視点で描かれることで心情や背景、人物像が伺えるが、同時に「このセリフを言っているのは誰か?」とも思える、文章ながらの見えない部分を予想しながら読み進めた。
幾重にもどんでん返しがあり、"同じ景色でも見えている世界が違う"を具現化したような作品。読み手として追体験的に後追いしたり、リアルタイムで物語が進んだりするのが臨場感があって面白い。
10.道尾秀介『いけない 』
白沢市や蝦蟇倉市、またいわく付きの弓投げの崖を舞台に巻き起こる事件を、オムニバス形式で綴ったミステリーだが、すべての作品がひとつに繋がっている。
未解決のまま進んでいくものの読者である自身が唯一目撃者たるような描写に引っ掛かりを感じながら読み進める不安さと好奇心がある。
ものの10ページほどの終章を読むことでこの物語の行く末を見届けることが出来る。何とも言えぬ読後感がある。
以上。









