デス渋谷系
■デス渋谷系[DEATH-SHIBUYAKEI] <ムーブメント>
90年代中ごろ、渋谷系が醸しだす無駄にエヴァーグリーンな雰囲気に心躍らせ瞳をきらめかせる少女たちの目を覚まさんとばかりに自然発生的に生まれ、誰かの手により悪意たっぷりに名づけられたムーブメント。ノイズミュージシャンである暴力温泉芸者、サイケデリックヘヴィロックバンドのDMBQをその担い手とし、既存のいわゆる"渋谷系"が持っていた爽やかでオシャレといった雰囲気とは真逆な価値観で構成されるムーブメントではあったが、コーネリアスが当時もはや嘲笑の対象でもあったハードロックの象徴的な楽器であったフライングVを自在に弾きこなすことでオシャレガジェットとして再生させるなどの動きもあり、なんとなく受け入れられていった。また、文学の分野では、阿部和重の小説『インディビジュアル・プロジェクション』(新潮社)が、そのパルプフィクション的な内容と、常盤響の手によるエロチックかつオシャレな装丁もあって、デス渋谷系文学などとも称された。なお、雑誌『モア・ベター』第6号のデス渋谷系特集にて取り上げられたのは、暴力温泉芸者、バッファロードーター、シトラス、シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハー、チボ・マット、JON、ルルーズ・マーブル、ギターウルフ、ヒップゲロー、U.G MAN、デッドリー・ポイズン、グラインド・オーケストラ。
■Cibo Matto『 Stereo ★ Type A』
日本人のユニットだがほとんど洋楽。裏PUFFY。曲の雰囲気も見た感じも声もPUFFYと言った感じだが、先に海外で名を挙げていたのはこちら。「Spoon」の怪しい感じが良い。
■Buffalo Daughter『Captain Vapour Athletes』
初期のチープなシンセやサンプリング、シンプルなロックな感じが良い。なぜか快晴の夏の日のような印象のある作風で、全体的にやかましくないのに暑い。じめじめしてないカラッとした暑さ。「California Blues」最高。
■Demi Semi Quaver『II』
日本のロックバンドだが、フランスのパンクバンドのような印象。ボーカル・エミエレオノーラのスキャットや歌い方が日本人離れしている。何語でもない言語を歌ったり、演奏も実験的でアヴァンギャルド。そもそも各楽曲のタイトルがおかしい。
■にせんねんもんだい『Destination Tokyo』
1999年に結成された3ピースガールズバンド。ミニマルでプログレッシブな作品で、ほぼインストでインダストリアルなノイズバンドだが、耳障りが良いので普通に心地よいBGMのような聴き方ができる。
■花電車『Hanaden Bless All』
Boredomsのベーシストのヒラが率いるバンド。サウンド的にも『Super Are』以前のポストパンク的なBoredomsに近いサウンドで、ベースが同じくらい凶暴。
■HIPGELLO『HIPGELLO』
全体的には演奏も歌も地味で録音もインディーズそのものだが、フレーズやメロディに謎の中毒性がある。高音質ではないローファイだから良いのか?初期の椎名林檎のようなUKロック感があり、あえて全体的に着飾らない感じが良いのかもしれない。歌詞カードを見たくなるような文学的な感じ。「水の泡で落胆」「神経質は全身麻酔で」「予想外の気圧配置」良い。このような雰囲気のバンドってないものか、あるいはどう括られるんだろうか。
現在はガラッと作風が変わり、演歌ロックっぽい、昭和の歌謡曲っぽい作風のバンド"赤い夕陽"として活動しているようだ。
―――トリビュート作品
■V.A.『EVOLVE OR DIE』
ギターウルフやDMBQらが参加しているデス渋谷系を体感できるブルースの独自解釈のカバー作品。Paul Jones「Rob & Steal」のMasonnaカバーは原曲崩壊の通常運転。
■V.A『Boogie With The Wizard』
T.REXのトリビュートアルバム。イエモンに頭脳警察と言った珍しい面々が顔を合わせる中、DEMI SEMI QUAVERや暴力温泉芸者といったデス渋谷系の面々も。
トラットリアレコード関連
■Cornelius『69/96』
CDとLPでジャケットが違うが、LPでは永井豪のデビルマンがあしらわれている。全体的に再構築的な作りとなっているが、全体的に渋谷系とはかけ離れたHR/HM的なアプローチを試みていて、Asa Changや暴力温泉芸者といったデス渋谷系陣営を引き連れている。波の音が1秒ずつ入れられて全69曲となっており、69年生まれの小山田が96年に発表するといった、全体的なコンセプトが面白い挑発的な作品。
■Cornelius『96/69』
前述作品のリミックスで、暴力温泉芸者、石野卓球、スチャダラパーやhideが参加しており、小山田圭吾の実父も参加している。このリミックスが最高にデス渋谷系色を増していて最高にカッコいい。砂原良徳の「MOON WALK」やhideの「Heavy Metal Thunder」リミックス中毒性が高い。当初は小室哲哉や小沢健二に参加してもらう予定だったが叶わなかった。ちなみに小室は「渋谷系は自分には作れない」と語っている。
96⚡︎69のメインビジュアルに使われている「日本あやうし!」「地球あやうし!」
— siloppi (@GALAXYSYRUPPI) 2020年12月19日
ジャケットに直に貼られているおじさんは「日本あやうし!」から向きを反転し使用されている。元絵には肩部に文字が入ってる為、CDジャケットのおじさんにはコンテムポラリープロダクションによる加筆が施されている。 pic.twitter.com/MIiUXeLwtz
■スチャダラパー『サイクル・ヒッツ~リミックス・ベスト・コレクション~』
全体的に攻めた人選とカバーだが、小沢健二フィーチャリングの「今夜はブギー・バック」を小山田圭吾が歌っているのがビーフのアンサーのようでカッコ良い(ほぼカラオケに歌を載せてる感じでバックでうっすら小沢の声が聞こえる)。金子飛鳥のリミックスはクラシック×ヒップホップという感じで上品な仕上がり。ピート・ロックもリミックスに参加していて、暴力温泉芸者リミックスもからくり箱のような感じで面白い。
■ASA-CHANG&巡礼『みんなのジュンレイ』
元スカパラのASA-CHANGだけあってスカを感じさせる部分はあるが、重点はパーカッションにあるように思える。「SENAKA」の独特な雰囲気も中毒性が高いし、Corneliusっぽい。電気グルーヴのピエール瀧が作詞した「日の出マーチ」はスカパラのカバーであり、その原曲は軍歌。間違えて北朝鮮放送を受信したような不気味な陽気さが良い。
■SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER『FUTURE OR NO FUTURE』
普通にオシャレな渋谷系らしいポップス。「SENTIMENTAL JOURNEY」がイントロギターリフからカッコ良くてサビもカッコ良い。ダークでUKロックのようなグランジ感も相まって、時期的にもBONNY PINKのような感じが全体的にある。
■想い出波止場 『VOUY』
元BOREDOMSの山本精一の実験バンド。エグいほどのダブサウンドで、それぞれ楽曲の印象が違うのが面白い。坂本慎太郎のような「Sugar Clip」は撮影を中原昌也(暴力温泉芸者)、PVでギターを弾いてるのが湯浅学。
■OOIOO『OOIOO』
思い付きの企画からは発足したバンド。BOREDOMSの中で山塚アイの次にうるさいヨシミが主体なのでBOREDOMS感はあるがゆったりとしたサイケロックと言う感じ。
―――山塚アイとその関連
下記記事にて山塚アイについては触れているので割愛。
Cornelius小山田圭吾主宰のトラットリアレコードのサブレーベルであるショックシティーを担当していたのが山塚アイだ。Cornelius『FANTASMA』ではショックシティーの作品をメドレー的に紹介するボーナストラックが収録されている。
ハナタラシ後のボアダムス初期は全体的にパンク、ノイズロック的な荒々しい演奏とシャウトが凄まじい。初期はスッカスカでただ山塚アイが叫んでいるような、本当にボアダムな感じがする音楽だったが、逆にそれがかえって心地よくなってくる。後期は太陽信仰的な作品が目立つようになった。
■Various『SHOCKCITY SHOCKERS』
ショックシティーのバンドやアーティストの作品が収録されている。作風としてはインド・サイケデリックなトランスやガムランが多い。その中でもパンクっぽいものもあり、ボアダムス好きならハマるラインナップ。
■SURFERSOFROMANTICA『SUN∞』
ボアダムスとハナタラシの中間のような雰囲気の作風。西のボアダムス、東のサーファーズとのこと。なんとなくターンテーブリズムのような感じがしてオープンリールや溶かしたレコードでいろいろやってた山塚アイが彷彿とされる。
鹿コア
★「鹿コアブーム」 【12分50秒頃】
プンクポイことロマン優光氏が鹿柄の迷彩シャツを着ていたことに端を発した……とのことだが、“鹿コア”とは、90年代半ばに海外で盛り上がっていたローファイ/スカム・ブームへの回答としてプンクボイ、DMBQ、U.G.MANといったLess than TV周辺アーティストが興したムーブメントのこと。参考までに95年、Less than TVからリリースされた鹿コアオムニバスCD『Deernibus』(ch-10) の収録曲を記しておくと、M-1.プンクポイ「サイコボイ」、M-2.we are the world「punk new」、M-3.D.M.B.Q.「2'56"」、M-4.GRAVY「DON'T ASK WHY」、M-5.とん平&ビショップ「ジーンズレボリューション」、M-6. Johnny Charange「Charange Spirits」、M-7.B.R.D「Mr.NO FUN」、M-8. U. G. MAN「LOW-J」<全8曲>。
下記サイトは鹿コア発祥のレーベルLess Than TVだ。鹿コアはハードコア系の作品が多いが、2000年代初期のナードコア的なおふざけ的ムーブメントはそれに近いだろう。
■Various『Music For Retards』
鹿コアの立役者、プンクボイが参加しているハードコアパンクのコンピレーションだ。歪んだ音が多くて最高だし、ジャケのごみ箱に捨てるような音楽という感じも良い。This is Trash.
■ロマンポルシェ。『おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。』
『BGM』『浮気なぼくら』の頃のYMOのようなニューウェーブ風なテクノポップ(実際はP-MODELや平沢進に近い)に説教パートがあって、スネークマンショーを彷彿とさせる。
Less Than TV
■Limited Express (has gone?) × 2MUCH CREW『CHAMPURU OF DOOM』
2MUCH CREWとのフィーチャリング作品。パンキッシュな雰囲気の中にアヴァンギャルドジャズや初期TGのようなインダストリアル感がある。デジタル配信もされてるが、CDでは蓋がしっかり締まらないので輪ゴムで締められた状態で販売されているのも面白い。
■DMBQ『Dynamite Masters Blues Quartet』
適当なタイトルで内容もよくわからない即興演奏のような作風でジャケも香港映画のポスターのようなカオス。ほぼUntitledな作風ながら楽曲によって雰囲気が違ったり好き勝手やってる感じが自由気ままで楽しい。
■Guitar Wolf『Run Wolf Run』
1994年 - 1997年までLess Than TV所属。現在は自社レーベルにて活動。荒々しい演奏とギターのディストーションが最高のローファイ・スカムと言う感じ。時を得て現在も活動を行っているが、未だ音割れの音質は健在。だがそれでいい。
関西ブレイクコア
■DODDODO『Sample Bitch Story』
サンプリングを多用したブレークコア。Shizuoのような雰囲気があるが、関西ブレイクコアアーティストによるコンピ作品『jpop terrorism』にて椎名林檎の「歌舞伎町の女王」をサンプリングした「生野区の女王」と言う作品があるが、ネーミングのインパクトが凄い。
前お話ししたか忘れましたが、oorutaichi alone B'z COVER https://t.co/5y11UbsXsr
— t_m_r_e (@akuzimot) 2019年5月9日
とかの入ってた関西ブレイクコア勢のjpop terrorismというコンピ大好きだったんですがさすがに上がってないですね。hideがMステでスピード発言した場面のサンプリングからはじまるピンクスパイダーとかあったんですが
■MARUOSA『EXERCISE AND HELL』
ヘンデルの『メサイア』から始まるイントロ以降、ほぼスピードコアであっという間に時間が過ぎていく。ビートを手にしたMasonnaのような熱量。
■Oorutaichi『Drifting my folklore』
山塚アイに憧れがあったようで、リミックスでもEYE Remixがある。バンド活動ではウリチパン郡と言う名前で活動しているが、クレイジーケンバンドや坂本龍一から絶賛されたらしい。
「Beshaby」は完全にキマッテる作品で、最近はアニメ『映像研には手を出すな』のBGMを担当。
■Satanicpornocultshop『Arkhaiomelisidonophunikheratos』
作品によって作風がそれぞれ異なるが、Hair Stylisticsのようにサンプリングとノイズ、ビートで構成している。本作はエスノ系でおしゃれで落ち着いた作風だが作品によっては激しいブレークコアを展開している。
ポストデス渋谷系/ネオデス渋谷系
本来そんな括り方はされないだろうが、個人的にそのエッセンスを感じ取れる現代のバンドを取り上げる。今はおしゃれで洗練された作品が多いため、ある意味こういった類の音楽は極めて少ないだろう。
■Vovivav『ART PUNKS IS LOCALS ONLY』
Hair Stylisticsや山塚アイも絡んでいるアートパンクバンドの作品。かのGraind OrchestraやBoredomsのような雰囲気を持ち合わせている。Lightning Boltのような雰囲気のバンド。
■禁断の多数決『アラビアの禁断の多数決』
音楽を基盤としたニューコミュニティとあるが、YMOの初期構想のような、他所からメンバーを迎い入れてほうのきかずなり・はましたまさしの核メンバーで回しているプロジェクト(現在はほうのきかずなりのみ)。どこか懐かしいポップスと言う感じがしてエモい。
■Have a Nice Day!『Anthem for Living Dead Floor』
the telephonesっぽい雰囲気だがニューウェーブ的な要素が強い。楽曲に反してボーカルは淡々と軽い感じで歌われる。フレンチポップやユーロディスコっぽい印象が強い。
■サニーデイ・サービス『the SEA』
本作は『the CITY』のリミックス作品だが、なかなか人選が面白い。『すべての若き動物たち HAIR STYLISTICS REMIX (MASONNA Remix)』はリミックスのリミックスであり、元のリミックスをした中原昌也が暴力温泉芸者時代にスプリットCDを出した先輩のMASONNAがリミックスしているのが趣深い。ヒップホップ、テクノ、ノイズ、現代音楽…ジャンルや世代関係なくリミックスされた感じが面白い。
レーベル
下記レーベルを抑えておけばサブカル的要素を含むほとんどの上記アーティスト群と繋がることができるだろう。個人的にはANNAを生んだ原宿のBIG LOVE RECORDSも捨てがたい。
■P-VINE
■LOS APSON?
以上。